第十一章:選択

「いいか、少しでもドアが開きそうな気配がしたら
 一気にこっちからブチ開けるんだぞ・・・!」

野球部の4人はバレー部の部室の前にひっそりと到着した。
ドアの前で、小声での会話が展開される。

「いいのかなぁ・・・、バレー部だって部員は多くないんだし
 もし捕まえることができても部員を譲るなんて考えられないけど・・・」

「青太郎、いいか、これは食うか食われるかの戦いなんだ。
 少しでも興味を示したやつがいたら無理矢理連れ去るんだ、
 いつぞやのお前のようにな・・・!」

「むぅ・・・案の定左場君は無理矢理連れてこられてたのね」

「僕は1ヶ月限定がじょうけ・・・」

「おっ、中が静かになったぞ・・・俺達の気配を察知しやがったようだな・・・!
 強行突破で逃げられる可能性がある、気をつけろよ」

青太郎の言葉がアッサリと有児にかき消され、
4人が息をのんで待ちかまえ、数分がたった。
ドアノブがピクリと動いた。

「今だっ!!!」

ガチャ

有児を先頭に、突撃を試みた4人であったが、
あまりにも平凡に開いたドアに拍子抜けして部室の中に倒れこんだ。

「いてて・・・しかしとうとう観念しやがったな、誰か野球部に興味がある奴は・・・」

「その必要はない!」

起き上がりながら仕掛けた有児の頭上でそう言い放ったのはバレー部キャプテンの後藤だ。

「後藤・・・そう言うな、話だけでも聞いていかないか・・・」

早くも焦りが表情に浮かぶ有児とは、対称的に後藤は子供を諭(さと)すような表情を浮かべた。

「真黒よ、君の気持ちはわからんでもない。だがな、バレー部も部員は決して多くはない。
 そいつも確か、部員の少ない相撲部から勧誘したんだろ?」

後藤は堅を指差してそう言った。

「な、何が言いたい・・・」

「ふふふ、俺達は部員内で会議を開き、こう決定した。
 率直に言って、我らバレー部は野球部と友好関係を結びたい!」

「な、なにィ!!?」

驚愕であった。有児ですら、心の奥底ではハイエナのような部員探しに
まったく罪悪感がないわけではなかったのだ。
他の3人は無論、ヤバいことをしている、とはっきりと自覚している。
そこででた後藤の言葉にとまどわずにはいられなかった。

「友好関係とは・・・一体どういうことなんだ?」

「いいか、よく聞くんだ。お互い、部員数には苦労している、そこで俺達は考えた。
 ある部員を2つの部で共有、つまり掛け持ちさせることによって、廃部を免れる・・・!」

後藤の熱弁に、4人はただただ納得するばかりであった。

「それは確かに悪くない・・・しかし、それに納得する部員がいたのか?」

「会議では満場一致だったさ。
 掛け持ち部員になるのは、今日バレー部室に最も遅く到着した人物ということになっている」

「なるほど・・・で、その部員はどこにいるんだ?」

後藤は首をかしげながら答えた。

「いや、実はまだ来てないんだ。おかしいな・・・
 会議はサボってたが、あとで連絡いれといたんだが・・・
 まさか交通事故にでもあったんじゃないだろうな・・・最悪の場合は大林、お前だからな」

「えぇ・・・?俺っすか!?」

大林、と呼ばれた長身の男は驚き焦った様子だ。おそらく2番目に遅かった部員なのだろう。

「大林・・・か、よろしく頼むぜ!」

先制攻撃を仕掛ける有児、だが・・・・

「いくらなんでも先輩はハンパなことじゃ死なないっすよ!
 俺が掛け持ちになることはまずないんで、そこんとこはよろしくお願いします・・・」

「ほう・・・頼もしい奴が来てくれそうだな、後藤、感謝するぜ・・・!」

焦りつつも苦笑いを浮かべて有児のフレンドリーな言葉をかわす大林。
そんな大林のことはすでに忘れて、やがて来るであろう新しい部員に期待を膨らませる有児。
そして大林とは逆に堂々と有児に接するのは後藤だ。

「ふっ、部員で困ってるのはお互い様ってことさ、気にするな」

有児と後藤、いや、野球部とバレー部はここに固い友情で結ばれようとしていた・・・
その時だった。

「よぉ!皆こんなところで何やってんだ?」

そこに、身体全体を土で汚し、数箇所に傷を負った男が現れた。
体格はさほど大きくないが、筋肉は割とついていて、たくましそうだ。
そんな彼を見て後藤はさっきまでのおおらかな態度を一変させた。

「さ・・・参蔵!お前どこ行ってたんだ?前に連絡しておいただろ!?」

「連絡・・・?何かあったっけ?」

参蔵、と呼ばれたその男は不思議そうな顔をして後藤に問い返す。

「野球部との掛け持ちの話だよ!」

「あぁ・・・・・・って、なにィ!まさか俺が!?」

後藤の軽い怒鳴り声にようやくことを思い出したと思われる参蔵はようやく焦った。

「・・・そのまさかだ・・・!レギュラーは絶対に遅れないように強く言っておいたのに・・・
 ところでお前・・・その格好はなんだ?どこに行ってた・・・」

「へへ、山ごもりさ。必殺バーティカル・レシーブ、ようやく完成させたってのによぉ・・・」

呆(あき)れたような後藤に、鼻の下を指でこすって苦笑いを浮かべる参蔵。
そんな状況に食ってはいるのはもちろん有児だ。

「参蔵とか言ったな、俺が野球部キャプテンの真黒だ、仲良くなろうぜ・・・!」

「お、おい!ちょっと待てよ!俺は掛け持ちなんか嫌だぜ、
 なんにしても中途半端なのは嫌なんだよ、俺!」

フレンドリーに接した有児であったが、慌てふためく否定の言葉を浴びた。
だがその言葉は有児の脳に電撃を走らせた。

「だったら野球部に入らないか!?バレー部抜けてよ!
 見たところ運動神経もよさそうだ、チームの主軸になれるぜ!!」

有児得意の勧誘だ。
が、さすがに3人は止めに入る。

「お、おい有児まてよ!せっかくいい条件だしてくれたバレー部にそりゃねーぜ、よー」

「堅、俺達は部員集めるだけじゃダメなんだ、今年中に1勝しなきゃならねぇんだ・・・!」

有児は人情を踏みにじる発言をしたのだ。
しかしこの場面においては同時に有児の熱心さを物語ってもいる。

「まいったなぁ、大林、お前野球したくないのか?」

有児の熱に困ってか、参蔵は大林に助けを求める。
だが・・・

「えええ!?、でも決まりだから先輩が掛け持ちすべきだと・・・ねぇキャプテン?」

「・・・そうだな、参蔵、ここは掛け持ちしてくれ、頼む・・・・!
 なんなら、野球部が1勝するまででもいい・・・だよな、真黒?」

先ほどの堂々とした態度とは正反対に後藤は焦った。
なんとか参蔵が納得するように条件付けし、有児に同意を求める。
しかし、悪知恵の強い有児にそれをするのは無謀だ。

「・・・まぁ廃部がなくなれば後はどうにかなるわけではあるが・・・
 中途半端は嫌いなんだろ、よし、いい方法があるぜ」

「いい方法?」

「野球部が1勝するまでは野球部に所属してくれ、その後はバレー部に戻ってもいい。
 後藤、参蔵は多くて大会2つでれなくなるが、かまわんよな?」

「む・・・まぁかなり痛いが・・・・参蔵、どうだ?」

してやられた、と後藤は思ったが、参蔵が条件を飲むとは思えない。
選択は参蔵にゆだねた。

「へへ・・・・・・・わかった、やってやろうじゃねぇの・・・!」

「・・・」

後藤は唖然とした。
言葉もでなかった、完全に有児にしてやられたのだ。
参蔵の性格はわかっていた、しかし、バレーを選ぶと思っていたのだ。
たとえ数ヶ月といえど野球一本を選ぶことはない、しぶしぶ形式上の掛け持ちを認めるだろう、
そう思っていたが参蔵は掛け持ちを認めることなく数ヶ月の野球部入りを選んだのだ。

「えっと、俺は阿慈参蔵(あじ さんぞう)だ、短い間だがよろしくな!
 へへ、こう見えても忍者の末裔でさ、足には少しは自信があるんだよな!」

阿慈参蔵、ここに新たに4人目の部員を加えた野球部。

参蔵君かぁ・・・僕と似たような境遇だなぁ・・・

そんなことを考える青太郎もいたが、何はともあれ残りはあと5人。
まだ半分以上残っている、まだ試合への道は遠く険しいのだ・・・

続く

キャラクターデータ
阿慈参蔵 右投右打、スタンダード
FFDEE
弾道1
エラー率D
特殊能力:守備職人