第二記:夏の日の勧誘

「真黒、今日もはりきって練習しようぜ!」

まぶしい日差しの中、勝先輩の声がグラウンドに轟く。
そう、今は夏。
たった2人のグラウンドが妙に広く感じる。
グラウンドを分け合うサッカー部と陸上部の
疲労を倍増させるのはセミと勝先輩の声。
そして単調に繰り返されるこの音。

バシィ!・・・・ぱしっ。

「よおし、休憩!」

「先輩・・・」

「ん?なんだ、もう少し練習を軽めにしてほしいのか?」

「その逆ですよ・・・ってか、たまにはキャッチボール以外のことをしましょうよぉ・・・」

「うーん、1人で素振りってのもむなしいだろ?キャッチボールは野球の基本でありすべて!」

いや・・・この人、強くなろうという気があるんだろうか・・・
そもそも、新入部員がいまだに来ないのに、
勧誘のひとつでもしたらどうなんだろうか・・・

「先輩、待ってても何も始まりません、勧誘に行きましょう!」

もう我慢できない、このままじゃ俺も堕落してしまう!

「よしっ、じゃあ他の部をあたってみるかっ!」

・・・いや、違うでしょ。
他のスポーツをやってるやつがあっさり入部したりしないでしょ。
とりあえず数合わせでもなんでもいいから入部させて、
野球らしい野球がしたいんだよ俺はっ!

「まずはサッカー部だっ、ついてこい!」

「・・・はい。」

先輩には逆らえないんだよなぁ・・・
こんなときだけ弱気な自分に苛立つ・・・

「よっ、佐々木!調子はどうだっ」

「あ・・・あの、あなた誰ですか?」

先輩・・・何も、日本サッカー界の若手のホープ
佐々木に当たることないのに・・・ダメだこりゃ。

「野球やってみないか、サッカーより面白いぞっ!」

「あの・・・僕の足はボールをける為に生まれてきたんで・・・
 ハ、ハッキリ言いますけど・・・あきらめてください」

佐々木は明らかに動揺していた。
断り方もぎこちなく、勝先輩に圧倒されている。

「いやいや、その足はホームベースを踏むために生まれてきたんだっ!」

「先輩、あきらめましょう、おとなしく張り紙で・・・」

有児も、さすがに可哀相に思えてきたらしく、勝先輩を抑えようとした。
・・・が、

「よし、次は相撲部だ!」

「・・・」




言うまでもなく、勝先輩の勧誘では入ってこなかった。
彼の行動は学内中で評判になり、張り紙を貼っても
誰も来ないという最悪の状況にまでなったのだった・・・

「何故だろうな・・・ま、自然にはいってくるだろ、な、真黒っ!!」

「・・・それじゃ一生集まりませんよ・・・!」

「む・・・、それじゃ、何か策があるのか?」

「いえ・・・」

まさか、先輩がその策をつぶしたとは言えんよなぁ・・・
嗚呼、他の大学じゃ今頃は合宿で汗を流してるんだろうなぁ・・・
秋の大会にもでれるはずもないし、もはや先輩が引退してからに
すべてを賭けるしかなさそうだ。それまで・・・ああ、長いっ!!

続く