第三記:季節は流れる

赤とんぼが空を飛び交う秋。
読書の秋。
食欲の秋。
そしてスポーツの秋。
体育会が盛んなここ、熱血大学では熱気が高まる季節。
・・・だが。

「先輩ぃ〜、せめてキャッチボールでも、
 距離を変えるとか何か変わったことをしましょうよ〜・・・」

「あせるな!無理するとケガするぞっ!」

勝先輩の練習に合わせてたら
俺の実力も下がってくばかりだ・・・
張り紙も貼り続けているがいまだに誰も見学にすら来ない。


寒い冬。
コタツとみかんが冷えた心を暖めてくれる冬。
すもう部や剣道部は寒稽古にはげむ。
外で活動していた部は室内で地味なトレーニングにはげむ。
・・・はずなのだが、何故か数名の学生達が野球部を見学に来ている。

「先輩ぃ〜、なんで雪が降ってるのに外でキャッチボールなんすか〜」

「これだけ雪が積もってるんだ、足も鍛えられるぞっ!」

鍛えられるどころか、足がしもやけになっちまう・・・
しかも先輩、コントロール悪いから余計に動かなきゃダメだし。
ほーら、また悪球だよ・・・っと!

ドサッ!

ここらでは珍しいほど積もった雪に足をとられ、
有児の体はきれいに人型を作った。

「そーら、みっともないぞっ!ねぇみなさん!」

面白がって見ていた学生達は爆笑した。
もっとも、さっきまでは勝先輩のノーコンぶりに
微笑を繰り返していたのだが。

「どう、野球部に入りたくなった?
俺たちと一緒に 気持ちいい汗を流してみないか!?」

・・・誰もいなくなった。

有児は、心も体も芯から冷えた。
しかも、この後長い間、しもやけに苦しむはめになった。
しかし、待ち焦がれる春ももう少し。
新入生を勧誘している自分を想像した。
部員が集まり、ノックをしている自分を想像した。
地方大会で優勝し、部員から胴上げされる自分まで想像した。
自然に胸は高鳴っていた。


続く