第四記:熱血、暁を見る

時は3月、別れと出会いの季節。
有児は、前者が楽しみで仕方がなかった。

もう少しで先輩が引退するんだ・・・
まともな勧誘ができるんだ・・・
4年の秋、つまり俺の最後の大会の時には
全国で優勝したいもんだよなぁ・・・・・・・・・・・・・・・ん!!?

早くも3年後のことを想像する有児だったが、あることに気がついた。

・・・なんで先輩はまだ引退してないんだ?
普通は秋に引退するはずじゃないか、先輩、就職活動してるのか?
それとも大学院にいくのか?謎だ・・・・

「おい、真黒!ちょっと来い」

「なんすか?」

「お前に見せたいものがある、そこまでランニングだっ!」

ランニングか・・・街中を走るのは恥ずかしいんだよなぁ・・・
何を見せるつもりなんだろう、うまいラメーン屋でも見つけたのか?

たったったったったっ・・・・

「真黒よ、お前とこうやってランニングするのも、あと数回だなっ!」

たったったったったっ・・・・

「先輩・・・ひとつ聞いていいですか?」

たったったったったっ・・・・

「なんだ?何でもいってみろっ!」

たったったったったっ・・・・

「どうして先輩はまだ引退しないんですか?」

有児はとうとう気になっていたことを吐いた。

「そんなの野球が好きだからに決まってるだろっ!」

アッサリと答えられた。

「そら、ついたぞ!」

有児は額に軽くかいた汗を手でぬぐいながら前を見上げた。

・・・あかつき大学。

熱血大学が所属する都市リーグでは最強、いや、全国的に見ても強豪中の強豪である。
有児は全国優勝などと夢見ているが、
ここを倒さない限り神宮・・・つまり決勝リーグに出場することはできない。

「先輩・・・、なんであかつきなんかに?」

「あれを見ろ!」

勝先輩が指差した光景は、あかつき大学野球部の練習だった。
ちょうどノックが行われていたところだった。

「すごい・・・、これが名門大学の練習なのか・・・」

この1年間、キャッチボールとランニングしかしてこなかった有児にとって、
ノックとはかなり懐かしく、大学野球のハイレベルなプレーは有児を驚かせるには充分だった。

「おいおい真黒よ、それは二軍の練習だぞ」

「・・・!」

「一軍はあっちだ」

有児が見た先には、バッティングマシーンやチューブ、パラシュートといった器具を使い
効率的な練習を各々で行うあかつき大学のエリート達がいた。
実戦守備練習が行われているグラウンドの中心には、ある1人の投手が立っていた。

「あれが猪狩だ、名前くらいは知ってるだろう」

猪狩守・・・有児と同期で、高校時代は甲子園で名を馳せた投手である。
直球の威力もさることながら、スライダーやカーブといった変化球も持っており、
今でも充分プロで活躍すると言われている。

「俺だって・・・奴に負けない直球を持ってますよ」

「かもしれんな、だが今のお前では奴には勝てん、
 たとえお前が猪狩以上の才能を持っていたとしてもだぞ」

「何故です・・・、練習の差ですか?キャッチボールとランニングしかしなかったから…」

「・・・そうだ」

「・・・そうですよね、ちんたら練習やってたら実力は上がるどころか、
 どんどん弱くなっちまう・・・実戦からも遠ざかるし、猪狩はおろか、
 どこの大学の投手にも勝てやしない」

「真黒よ、お前は今日ここで何を学んだ?」

「そうですね・・・、練習の重要さを学びました、
 それから、今までの1年間の空虚さも」

「そうだな、練習はやらないと試合にはまず勝てん。
 だがな、今までの1年、これは決して無駄ではなかったと言っておく」

何故だ・・・?無駄じゃないかよ。
皮肉で言ってるのがわからないのか先輩よ。
ロクな練習しないで、そんなこと言っても説得力がなさすぎるじゃないか…

「この1年間、普通に練習やってたら、今ほど練習のありがたみはわからなかったろうな」

・・・!

「真黒よ、野球の基本はキャッチボールだっ、ボールを通じて仲間と会話することだっ!
 そのことさえ忘れなければ、お前は日本一の投手になれるし、日本一のチームを作れる」

「先輩・・・」

「見てのとおり、あかつきの連中は個人で練習してばかりだ。
 定期的に一軍・二軍・三軍の入れ替え試験があって必死だ、チームプレイを磨く暇は無い。
 あかつきの盲点はここだ、それをお前は今知ったな?」

なんか・・・今の先輩は妙に格好よく見える。
何故だろう、言ってることに謎の説得力を感じる・・・

有児はまるで魔術にかかっているかのように、勝先輩の話を納得した。
勝先輩の論理性もつながりもまるで無い話に何故か魅力を感じたのだった。

「先輩、俺、日本一の投手になって、日本一のチームをつくりますよ!」

「その意気だぞ、試合の時は応援に行くからな!」

「よし、今から部室に戻って練習法と勧誘方法について考えるぞ!!!」

真黒有児、大学1年次も終わる頃、ようやく野球人として再び走り出すのだった。

続く

キャラクターデータ
真黒有児(2) 右投右打、オーバースロー
球速:144km/h、スタミナ:E、制球:D
変化球:カーブ1
特殊能力:センス○、クイック×、ピンチ×
野手能力:GEDDF