第五記:視察

あかつきの練習を見たあの日から数日後、
2人は別の大学の練習も見ることにした。
勝先輩は今春の都市リーグのためだというが、
部員もいない野球部が何故、と、はたから見た人間は怪しむわけだった。

「あ、先輩、あの選手すごいですよ、今大きいの打ちましたね」

「うむ、あれは椿本だな、チェックだぞっ!」

「あとは、キャプテンの猿橋選手に・・・あのメガネの選手、俊足っすね」

「うむ、見たこともないがチェックだ!」

2人が熱血大の参加している都市リーグの相手の1つ、
パワフル大学のグラウンドを見てそんな会話をしている一方・・・

「ん、なんだ?あの人たち・・・あやしいぞ」

「あれは熱血大の野球部でやんすね、部員が足りない弱小大学でやんす」

「そっか、するめ大学もリーグに参加しないし、今回も敵はあかつき・仏契・官僚だけだね!」

「こら、お前たち、何故練習しない」

「あっ、キャプテン、戸井君が話しかけてきたでやんす、おいらは無罪でやんす!」

こんな会話が繰り広げられていた。
ここ、パワフル大学はあかつきに続きリーグ2位の実力を持つチームだが
有児と同期の選手には有望な選手もおり、密かに注目されている。

「ここは・・・なんか、入るのが気が引けますね・・・」

「仏契大学は監督が去年から変わったらしいからな、チェックだぞっ!」

「・・・先輩、なんでもチェックですね・・・」

「そんなことはいいっ、あれがキャプテンの非道だ、いい球を投げるぞ」

シュルルルル・・・バシッ!
非道投手が投球練習を行っている。
怪しい容貌とは裏腹に、ごく普通のピッチングと有児は見た。

「スライダーにカーブ・・・直球も大したことないですね」

「いやいや、あの微妙に変化する球は意外に打ちにくいもんだぞっ!」

勝先輩の話よりも、有児が気になっていることがあった。

剣山腕立て、ノコギリダッシュ・・・・仏契大はなんて練習してるんだ。
あんなことして怪我したらどうするんだ・・・?
根性主義にもほどがある、これじゃチームは強くなるどころか・・・

有児は異様な練習風景に疑問を抱きつつも、仏契大を後にし、
学業でも有名な官僚大学へと向かった・・・

「・・・さっきの練習を見た後では、いやに寂しい練習ですね」

「いやいや、いまから紅白戦をやるみたいだぞ、よく見とけよっ!」

紅白戦・・・熱血大学にはまったく無縁の練習と言えるだろう。
有児はうらやましそうに試合を見つめた。
いつもの様に、ゆくゆくは熱血大も紅白戦を。と考えていたのだった。

「はぁ・・・守備がいいですね、このチーム」

「うむ、しかし打線は大したことないぞ、まったくヒットを打ってないな」

「えぇ・・・、でも投手も悪くないですね。
 球種が多いから絞り球が決めづらいんですよ、きっと」

「お前結構頭いいなぁ、監督としてもやってけそうだぞっ」

「ああぁ・・・そう言えば監督いないのか・・・」

そんなこんなで、2人は官僚大学を後にした。
残るは最後の都市リーグ参加大学、するめ大学である。

「するめはたいしたことないぞ、まずはあそこに1勝しないとなっ」

「俺達が言えた言葉じゃないですよぉ・・・」

「いや、するめには勝てる、人数さえ集まれば勝てるっ」

・・・そうなのか?
そんなに弱いとなると、マトモに活動してないんだろうか・・・

有児の予想は的中した、2人がたどり着いたするめ大学のグラウンドには
ただただ春の嵐に砂が舞っているだけで、野球部らしいものは活動していなかった。

「今日は練習休みでしょうか?」

「いや、4年生も引退して、ろくに部員がいないんじゃないだろうか。
 このままじゃ、もしかしたら都市リーグに参加できないかもなぁ」

「俺達もですけどね・・・」

するめ大学は見る価値なし、と判断し、2人は帰路についた。
すでに夕日も沈みかけ、あたりは暗くなりかけていたが有児の心は燃えていた。
いつかは全部の大学を撃破して神宮に行ってみせる・・・

そして、とうとう勝先輩の卒業の日がやってきた。

続く