第八記:チャンスとピンチ

かれこれただ今、夜の9時である。
真っ暗なグラウンドの中に明るい場所が1つ。

キィィィン!

「そらそら、こんくらいのフライはとれぇー!」

近所迷惑も考えずに大声を上げているのは有児だった。

「あ、ああ・・・」

ポテン!
有児のノックにつき合わされている青太郎だった。

「もう今日は暗いし、やめた方がいいんじゃ・・・」

「青太郎、今日じゃないと駄目なんだよ。明日は相撲部にでかけるんだ。
 まさか2人の部員のうち1人が簡単な捕球もできんようじゃ、入部してもらえねぇ」

「でもその部員がやる気なくしたら元も子もないよ・・・条件は覚えてるよね?」

「む、そりゃそうか・・・何もバリバリの根性主義をやろうってんじゃないんだ。
 今を耐えれば最高のベースボールライフが楽しめるってもんよ。
 ってことで、もう少しやろうぜ、な?」

「うん・・・もうちょっとだけだよ、本当に」

青太郎が入部して数時間、この会話の繰り返しだった。
そして、9時30分・・・

キーン!

パシッ!

「とれた・・・真黒君、ここらで終わりに・・・」

「うーん、そうだなぁ・・・まぁ、なんとかなるだろ、終わりにするかな」

「あのー・・・見りゃわかるけど野球部ですよね?」

と、ノックを終わりかけたその時、1人の人物がひょっこりと話しかけてきた。

「えっ、こんな夜更けに何か用ですか?」

その人物は小柄な体格にみあった控えめな声でこう言った。

「野球部に入りたいんですけど・・・」

!!!

「えっ、ホントー!?守備はできるの?甲子園にはでた?」

「あ、あのー・・・あたし、マネージャー希望なんですけど・・・」

よく見ると女性だった。
思わずプッと噴き出してしまったのは青太郎。

「えっ、マネージャー?」

「だめですか?」

「いや、全然OK!」

女マネージャーか・・・使えるなこりゃ。

「あたし、2年の佐原春瀬(さわら はるせ)です、よろしくね」

「よーしっ、マネージャーもはいったことだしがんばるぞ青太郎ーっ!」

と、何故か終わったはずのノックを再開しようとしたその時だった。

ゴホンッ!

「あっ、君も野球部にはいりたいの?」

ギロッ、と有児をにらみつけるその男、
割と年をとった風貌で、少なくとも学生には見えない。

「そ、そんなわけないか」

「わしはこの野球部の部長だ」

部長?1年間野球部にいて初めてあったぞ。

「グラウンドがうるさいと思ったら、野球部だったもんでな。
 ここ数年、野球部はまともに活動してないし、
 近所迷惑の注意のついでに廃部ということでいいね?
 どうせ部員も足りないのだろう?」

「う・・・マネージャー合わせて3人です」

「それじゃ、野球はできんな。大学側もそんな部にまわす予算はないそうだ。
 そういうわけで、廃部でいいね、用件はそれだけだ。じゃ!」

あまりに唐突に衝撃的なことを言われた有児であったが、
もちろんそうおめおめと言うことを聞くわけにはいかなかった。

「ちょ、ちょっと待って下さい。
 これから、部員集めて、りっぱな野球部にしますっ!
 だから、廃部はちょっと待って下さいっ!!」

・・・。
「そんなこと言って、ユーレイ部員で、人数だけ集めるんじゃないの?」

「わかりました!今年中に大会で1勝しますっ!これなら文句ないでしょう!」

そうそうこの部を潰してたまるかよ・・・!
俺が抑えれば1勝くらいしてみせるぜ・・・

・・・。
「しょうがないな。今回はおおめにみてやる。
 しかし、今年中に1勝しなかった時は本当に廃部だ。いいなっ!」

「オレの意地にかけて廃部にしませんっ」

「まぁ、せいぜい頑張るんだね」

部長は少し呆(あき)れたように含み笑いを浮かべ、去っていった。

「真黒君、あんな約束してよかったの?やっぱり僕は足手まといになるから・・・」

「なーに言ってるんだ青太郎!お前がいないと駄目なんだよ、
 心配すんな、俺はそうそう打たれはしない、廃部になんかしてたまるか!」

むぅ・・・最初からピンチっぽいけど、大丈夫かな。

気合の入った有児と心配そうな青太郎の後ろで
春瀬がふっとため息をついた。

熱血大学野球部、 部員数、現在2人
都市六大学リーグ春季大会開幕まであと1ヶ月!

キャラクターデータ
左場青太郎 右投右打、スタンダード
GGGGG
弾道1
エラー率G
特殊能力:バント×、タイムリーエラー、送球×、チャンス×